時系列データ解析に必須の「共和分」概念を徹底解説

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時系列データを扱う際の重要な概念である「共和分」について、その定義から条件、関連する現象までを詳しく解説したブログを紹介します。時系列分析に携わる方は必見の内容となっています。

目次

1. 共和分とは

共和分(cointegration)とは、時系列分析において、いくつかの非定常な時系列変数同士が特定の条件を満たす場合に、その線形結合が定常な時系列(定常過程)を形成する関係を指します。これは、経済データや金融市場の動向を分析する上で非常に重要な概念です。

1.1 定常と非定常

まず、定常過程と非定常過程の違いについて確認しましょう。定常過程は、平均と分散が時間によって変わらない時系列データを指します。一方で、非定常過程は、データの特性が時間とともに変化する場合を意味します。通常、経済データは非定常過程であることが多く、これを扱うためには特別な技法が必要です。

1.2 共和分の定義

具体的には、二つの時系列変数 ( X_t ) と ( Y_t ) がともに単位根過程(非定常過程)である場合、これらの線形結合が定常過程となるような係数 ( \beta ) が存在する時に、これらの変数は共和分の関係にあるとされるのです。言い換えれば、次のような関係が成り立ちます。

[
X_t + \beta Y_t = Z_t
]

ここで、 ( Z_t ) が定常過程である場合に、 ( X_t ) と ( Y_t ) は共和分していると考えられます。

1.3 経済や金融への応用

共和分の概念は、特に経済や金融の分野でデータ分析やモデル構築に広く応用されています。例えば、株価指数とその先物取引の価格が共和分している場合、これらの fluctuation に基づいて市場の動向を予測することが可能です。このような関係を用いることで、トレーディング戦略やリスク管理の手法を改善することができます。

1.4 共和分の重要性

Republicanの重要性は、単に関係を示すだけでなく、単位根過程が存在する場合にそれを適切に扱い、誤った結論を導くリスクを避けるために必要です。正確なモデルを構築するためには、共和分の存在を検定することが重要です。この検定によって、見かけの相関に潜む真の因果関係を見出すことができ、より強力な経済モデルの構築が可能になります。

2. 共和分の条件

共和分、またはコインテグレーションを理解するためには、いくつかの基本的な条件が必要とされます。共和分は、2つの非定常な時系列データが互いに特定の線形関係をもち、その組み合わせが定常的なプロセスを形成することを指します。以下に、この重要な条件について詳しく説明します。

2.1 単位根過程の確認

共和分の成立に不可欠なのは、観察される時系列データが単位根過程であることです。単位根過程とは、時系列データが非定常的であり、一次差分を取ることで定常的になる過程をさします。具体的な定義は次の通りです。

  • ( x_t )と( y_t )がともに単位根過程であり、ある定数 ( \beta ) に基づいた線形結合 ( x_t + \beta y_t = z_t ) が定常プロセスであれば、( x_t )と( y_t )は共和分しているとされます。

2.2 線形結合の定常性

共和分の関係が成立するためには、2つの単位根過程の線形結合が定常的であることが要求されます。これは、時系列ボラティリティが時間の経過によって変化せず、平均と分散が一定であることを示します。具体例としては次のように表現できます:

  • 任意の係数 ( \beta ) が存在する場合に、( z_t = x_t + \beta y_t ) が定常過程であれば、( x_t )と( y_t )は共和分の関係にあると考えられます。この場合、両者は長期的に均衡した関係を持つことが示唆されます。

2.3 共和分ベクトルの解析

共和分の確認には、共和分ベクトルと呼ばれる特定の係数の組み合わせを調査します。このベクトルは、異なる単位根過程同士を結合して得られるもので、時系列データ間の長期的な関係性を表します。具体的には以下のようになります:

  • ( z_t )が定常過程であるなら、次のように表現できます:
  • ( z_t = \alpha + \beta x_t + \gamma y_t + \varepsilon_t )

ここで、( \alpha, \beta, \gamma )は定数を示し、( \varepsilon_t )は誤差を表します。このフォーマットを使うことで、2つの時系列データの関係性を数量的に解析することが可能です。

2.4 実務での条件確認

実データを用いた分析において、これらの条件が満たされているかを確認するためには、様々な手法が採用されます。その中でも特に重要なのは、共和分検定という統計的手法です。この検定を通じて、データが単位根過程に従っているか、また線形結合が定常的であるかを評価することができます。

これらの条件をしっかり把握することで、長期的な傾向を捉えた投資戦略や経済モデルの設計が可能になります。

3. 見せかけの回帰

見せかけの回帰の概要

「見せかけの回帰」とは、統計的回帰分析において、本来の因果関係が存在しないにもかかわらず、説明変数と被説明変数の間に有意な関係が見える現象を指します。この現象は主に、単位根過程に従うデータが原因で発生します。単位根過程とは、時間の経過とともに変化するが、一定の平均や分散を持たないプロセスのことです。

単位根過程と回帰

2つの独立したランダムウォークデータを考えてみましょう。これらのデータは、それぞれ正規分布に従う独立な系列から生成されます。時系列のデータを回帰分析にかけた場合、見せかけの回帰が発生することがしばしば観察されます。この回帰では、たとえ2つの変数が全く関係ないものであっても、回帰係数が有意な値を持ち、モデルの説明力があるように見えてしまいます。

見せかけの回帰の実験

例えば、2つのランダムウォーク系列を生成し、それに基づいて回帰分析を行ってみます。このようにすると、回帰結果において高いR-squared値や有意なp値が示されるため、誤って因果関係を信じる危険があります。

以下は、回帰分析を行った際の典型的な出力結果です。回帰係数が有意であり、説明変数として使ったデータが、実際にはまったく独立したものであっても、説明力を持つように見えてしまうことがあります。

見せかけの回帰が発生する理由

見せかけの回帰が生じる理由は、ランダムウォークに特有の特性にあります。単位根過程は一定の期間にわたり増加または減少する特性があり、これが偶然にも同じタイミングで重なることがあります。この重なりが回帰関係を作り出し、一見信頼できる結果が得られるのです。これは、回帰モデルが意図しない関係性を捉える原因となり得ます。

見せかけの回帰の回避方法

見せかけの回帰を回避するための方法はいくつかあります。例えば、説明変数や被説明変数のラグ変数を使用することで、回帰分析における誤った関係を排除することが可能です。また、単位根過程に従う変数の差分を取得し、定常過程に変換してから回帰を行うという方法もあります。この手法により、データ間の casualな関係をより明確に洞察することができます。

見せかけの回帰は、データ分析や統計モデルの解釈において注意が必要であり、慎重なデータ選定と分析手法の適用が重要です。

4. VARモデルと共和分

時系列分析において、VAR(ベクトル自己回帰)モデルは多変量データの動態を捉える強力なツールです。特に、共和分の概念と組み合わせることで、単位根を持つ過程でも長期的な均衡関係を可視化し、より適切な分析が可能になります。本セクションでは、VARモデルがどのように共和分と関連するかを詳しく見ていきます。

4.1 VARモデルの基本

VARモデルは、複数の時系列変数の相互依存関係を記述するモデルです。それぞれの変数は、過去の値をもとに単純に自己回帰しながら、他の変数の影響も受けます。たとえば、2つの変数 (y_1) と (y_2) のVAR(p)モデルは次のように表されます:

[
\begin{pmatrix}
y_{1t} \
y_{2t}
\end{pmatrix}
=
A_0 + A_1 \begin{pmatrix}
y_{1,t-1} \
y_{2,t-1}
\end{pmatrix}
+ A_2 \begin{pmatrix}
y_{1,t-2} \
y_{2,t-2}
\end{pmatrix}
+ \cdots + A_p \begin{pmatrix}
y_{1,t-p} \
y_{2,t-p}
\end{pmatrix} + \epsilon_t
]

ここで、(A_0) は定数項、(A_1, A_2, \ldots, A_p) は各時点における係数行列、(\epsilon_t) は誤差項です。

4.2 共和分とVARモデルの関係

単位根過程を持つ時系列が、共和分関係にある場合、これらは単なるランダムウォークではなく、長期的な均衡関係を持つことが重要です。この状態では、時間が経過するとともに互いに戻ってくる力(誤差修正)が働きます。VARモデルにおいて共和分を考えると、次のような特徴が浮かび上がります。

4.2.1 VARモデルの単位根特性

共和分システムは、基本的に単位根を持つVARモデルとして表現されます。このことから、VARモデルでは差分を取ってから分析する必要があります。

4.2.2 VECMの導入

単位根過程のVARモデルは、しばしば適切なモデルを見出すことが難しいとされます。これを解決するために、ベクトル誤差修正モデル(VECM)が用いられます。VECMは、元のVARモデルの構造に誤差修正項を加えた形となり、共和分ベクトルを考慮することで、長期的に均衡を保つダイナミクスを捕らえることができます。

[
\Delta y_t = \alpha + \beta (y_{t-1} – \gamma) + \epsilon_t
]
ここで、
– (\Delta y_t) は差分変数、
– (\alpha) は定数項、
– (\beta) は誤差修正項の係数です。

このモデルによって、短期的な変動と長期的な均衡の両方を同時に考慮することが可能です。

4.3 VECMの特性と利点

VECMは、次の特性を持っています。

  • 非可逆性:VECMはその特性上、反転できない特性を持ちます。
  • 共和分の表現:誤差修正項により、時系列の違いが長期的にどのように均衡に戻るのかを示すことができます。

このように、VECMはVARモデルの枠組みの中でも共和分関係を強調し、時間の経過とともに変動がどう相互作用するのかを効果的に解析することが可能です。

4.4 VARモデルを使用した共和分の推定

VARモデルを通じて共和分を推定するためには、いくつかの手法があります。特に、Johansenの推定方法が一般的です。この方法を用いることで、共和分ベクトルを非常に精度高く推定し、統計的な意義をもって解釈することができます。このバランスが取れたアプローチによって、既存のデータから価値のあるインサイトを引き出すことが可能になります。

これらの観点から、VARモデルと共和分の関係を理解することは、時系列分析における重要なステップと言えるでしょう。

5. 共和分ベクトルと統計的裁定取引

統計的裁定取引は、金融市場において相関関係の強い資産の間で価格差を利用した取引戦略の一形態であり、その理論的基盤として「共和分」が重要な役割を果たしています。このセクションでは、共和分ベクトルがどのように統計的裁定取引に応用されるのかを探ります。

共和分ベクトルとは

共和分ベクトルは、二つ以上の非定常な時系列が持つ共通のトレンドを示すものです。具体的には、これらの時系列が和分過程に従っている場合、特定の線形結合を取ることで定常過程を形成することができます。この関係は、長期的な均衡の存在を示唆しており、価格がその均衡に回帰する特性を持ちます。

統計的裁定取引における応用

統計的裁定取引を実施するためには、資産間に明確な価格差が生じた際、その価格差が平均回帰性を持つかどうかを判断する必要があります。ここで、共和分ベクトルがその判断に寄与するのです。もし二つの資産が共和分している場合、それらの価格差が一時的に広がったとしても、長期的にはその価格差が元に戻ると考えられます。

入門的なアプローチ

例えば、株式ペアAとBを考えます。この二つの銘柄が共和分関係にあるならば、次のような手順で取引を進めることが可能です:

  1. スプレッドの計算: 株式Aと株式Bの現在の価格差(スプレッド)を計算します。

  2. 平均とズレの評価: スプレッドの過去のデータを基に平均を算出し、現在のスプレッドがその平均からどれだけ離れているかを評価します。

  3. ポジションの決定: スプレッドが平均から一定の距離を超えて広がった場合、スプレッドの縮小を期待してポジションを取ります。具体的には、株式Aが相対的に高い場合は売り、株式Bが低い場合は買うというロングショート戦略を取ります。

機械学習との統合

最近では、機械学習の技術を取り入れて、共和分関係にある銘柄のスプレッドをさらに高精度で分析する方法も登場しています。これによって、共和分ベクトルを利用した取引シグナルを洗練させることができ、より効果的な取引が期待されます。

このように、共和分ベクトルは統計的裁定取引の根幹を成す概念であり、相関関係のある資産間の価格差を適切に管理する上で不可欠です。

まとめ

共和分は、時系列分析において重要な役割を果たします。単位根過程の2つの変数が特定の線形関係を持ち、その組み合わせが定常過程となる場合、それらの変数は共和分していると考えられます。この概念は、経済データや金融市場の動向分析、さらには統計的裁定取引などの応用分野で広く活用されています。共和分の理解と適切な検定手法の活用は、より精度の高い経済モデルの構築や効果的な投資戦略の立案につながるでしょう。本ブログでは、共和分の基礎から応用までを丁寧に解説しました。この知識を活かし、時系列データの本質的な関係性を見出し、有益な洞察を得ることができます。

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この記事を書いた人

 大学卒業後、デジタルマーケティング企業に入社し、BtoBマーケティングのコンサルに従事。200社以上のコンサルティング経験に加え、ウェビナー・ワークショップ・Academyサイトの立ち上げに携わり、年間40件のイベント登壇と70件の学習コンテンツ制作を担当。
 その後、起業を志す中で、施策先行型のサービス展開ではなく企業の本質的な体質改善を促せる事業を展開できるよう、AI/DX分野において実績のあるAIソリューション企業へ転職。
 現在はAIソリューション企業に所属しながら、個人としてもAI×マーケティング分野で”未経験でもわかりやすく”をコンセプトに情報発信活動やカジュアル相談を実施中。

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