固有値と固有ベクトルの基本から実践まで – 数学の超基礎が身につく!

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このブログでは、固有値と固有ベクトルの基本的な概念から計算方法、さらに応用分野まで、ていねいに解説しています。線形代数の重要な概念を理解したい方は、ぜひこのブログをご覧ください。

目次

1. 固有値・固有ベクトルとは何か?

線形代数における固有値固有ベクトルは、非常に重要な役割を果たす基本的な概念です。これらの理解を深めるためには、行列がベクトルに及ぼす影響について考える必要があります。

行列の作用について

任意の正方行列 ( A ) は、ベクトル ( \boldsymbol{v} ) に対して以下のように作用します:

[
A \boldsymbol{v} = \boldsymbol{w}
]

ここで、( \boldsymbol{w} ) は行列 ( A ) とベクトル ( \boldsymbol{v} ) の積によって得られる新しいベクトルを表します。通常、行列 ( A ) はベクトル ( \boldsymbol{v} ) の向きや長さを変更しますが、固有ベクトルについては例外が存在します。特定のベクトルは、行列を掛けても向きが変化しないため、これを固有ベクトルと呼びます。

固有値と固有ベクトルの定義

行列 ( A ) に対して、次の条件を満たすゼロでないベクトル ( \boldsymbol{v} ) とスカラー ( \lambda ) が存在する場合、

[
A \boldsymbol{v} = \lambda \boldsymbol{v}
]

この場合、( \lambda ) は固有値と称され、( \boldsymbol{v} ) は固有ベクトルと呼ばれます。

  • 固有ベクトル: 行列 ( A ) を掛けても向きが変わらない特別なベクトル
  • 固有値: 固有ベクトルの大きさを示す倍率です

具体的な例

次の行列 ( A ) を見てみましょう:

[
A = \begin{pmatrix}
2 & 0 \
0 & 3
\end{pmatrix}
]

この行列を固有ベクトル ( \begin{pmatrix} 1 \ 0 \end{pmatrix} ) に適用すると:

[
A \begin{pmatrix} 1 \ 0 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 2 \ 0 \end{pmatrix} = 2 \begin{pmatrix} 1 \ 0 \end{pmatrix}
]

となり、固有値は ( 2 ) です。同様に、固有ベクトル ( \begin{pmatrix} 0 \ 1 \end{pmatrix} ) に対しては:

[
A \begin{pmatrix} 0 \ 1 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0 \ 3 \end{pmatrix} = 3 \begin{pmatrix} 0 \ 1 \end{pmatrix}
]

この場合は固有値が ( 3 ) です。

固有ベクトルの意義

固有ベクトルの存在は、物理や工学などの観点から、非常に有用です。特定のシステムにおける安定性や振動のモードを解析する際に、固有値と固有ベクトルを用いることができます。こうした概念は、複雑なシステムを理解するための貴重な手段となり、多様なデータ解析技法の向上にも寄与します。

以上のように、固有値と固有ベクトルは単なる数学的な理論ではなく、現実の多くの現象を理解するための強力なツールとして機能しています。

2. 固有値・固有ベクトルの基本的な計算方法

このセクションでは、固有値と固有ベクトルを求めるための基本的な手法を解説します。特に、行列の特性方程式の利用に焦点を当てて進めます。

固有値の計算手順

固有値 (\lambda) を求める際には、以下の特性方程式を使用します。

[
\det(A – \lambda I) = 0
]

ここで、(A) は対象となる行列、(I) は同じ次元の単位行列を示します。最初に (A – \lambda I) を計算することから始めます。

具体例: 行列 A の特性方程式の導出

次に示す行列 (A) に対して固有値を求めてみましょう。

[
A = \begin{pmatrix} 2 & 1 \ 1 & 2 \end{pmatrix}
]

この行列の固有値を見つけるために、特性方程式を作成します。

  1. (A – \lambda I) をまず計算します。

[
A – \lambda I = \begin{pmatrix} 2 – \lambda & 1 \ 1 & 2 – \lambda \end{pmatrix}
]

  1. 次に、行列式を求めてそれを0に等しいとします。

[
\det(A – \lambda I) = (2 – \lambda)(2 – \lambda) – 1 = (2 – \lambda)^2 – 1
]

  1. この行列式を展開し、結果として得られた式から解を導きます。

[
(2 – \lambda)^2 – 1 = 0
]

この式を展開すると、

[
4 – 4\lambda + \lambda^2 – 1 = 0 \quad \Rightarrow \quad \lambda^2 – 4\lambda + 3 = 0
]

  1. 最後に、この二次方程式を解くことで、得られた固有値がわかります。

[
(\lambda – 1)(\lambda – 3) = 0 \quad \Rightarrow \quad \lambda_1 = 1, \quad \lambda_2 = 3
]

固有ベクトルの導出

固有値を求めた後、各固有値に対応する固有ベクトルを見つける作業に移ります。固有ベクトル (\boldsymbol{v}) は次の条件を満たさなければなりません。

[
(A – \lambda I) \boldsymbol{v} = 0
]

具体例: 固有ベクトルを求める

最初に得た固有値 (\lambda_1 = 1) に対して、その固有ベクトルを求めるプロセスを見てみましょう。

  1. (\lambda_1 = 1) の行列を計算します。

[
A – I = \begin{pmatrix} 1 & 1 \ 1 & 1 \end{pmatrix}
]

  1. この行列について次のような方程式を設定します。

[
\begin{pmatrix} 1 & 1 \ 1 & 1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_1 \ x_2 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0 \ 0 \end{pmatrix}
]

  1. 一方の方程式からスカラー (t) を使って、((x_1, x_2) = (t, -t)) という形にできます。これにより、固有ベクトルは次のように書けます。

[
\boldsymbol{v}_1 = t \begin{pmatrix} 1 \ -1 \end{pmatrix}
]

同様の手順を繰り返し、固有値 (\lambda_2 = 3) に対する固有ベクトルも求めることができます。

このように、固有値と固有ベクトルを効率的に求める方法を理解し、実際の問題に適用できるようになることが重要です。異なる行列を用いることで、固有値と固有ベクトルの理解をさらに深めていきましょう。

3. 固有値・固有ベクトルの応用分野

固有値と固有ベクトルは、単なる数学の特性にとどまらず、さまざまな分野で重要な役割を果たしています。ここでは、いくつかの具体的な応用例を挙げて、どのように利用されているのかを見ていきましょう。

3.1 主成分分析(PCA)

主成分分析は、データの次元削減手法の一つです。多くの変数を持つデータセットから、データの分散を最もよく説明する新しい変数(主成分)を見つけ出します。このプロセスでは、データの共分散行列の固有値と固有ベクトルを用いて、主成分を定義します。固有ベクトルが主成分の方向を示し、固有値がその重要度を示します。

3.2 マルコフ連鎖

マルコフ連鎖は、確率過程の一種であり、さまざまな状態の遷移を表現します。特に定常状態において、遷移行列の固有値と固有ベクトルが重要です。固有ベクトルは、システムが長期にわたって到達することになる確率分布を示し、固有値はその安定性を示唆します。

3.3 力学系

力学系においては、固有値と固有ベクトルがシステムの挙動を理解する鍵となります。例えば、線形微分方程式を考えると、リニア化されたシステムの安定性は固有値の符号によって決まります。固有ベクトルは、平衡点周辺での動きの方向を示し、システムの挙動の予測に寄与します。

3.4 量子力学

量子力学では、物理系の状態は波動関数によって表されます。固有値問題は、ハミルトニアン演算子の固有値および固有ベクトルを求めることで、エネルギー準位や波動関数を得ることを意味します。特に、エネルギー固有状態は、系の特性を理解するための基盤となります。

3.5 連続体力学

連続体力学では、固有値と固有ベクトルが変形や応力の分析に利用されます。材料の特性に基づいて、固有モードと呼ばれる振動形態を求めることができ、これにより構造物の安定性や耐久性を評価することが可能になります。

3.6 その他の分野

その他にも、画像処理(特に画像圧縮や特徴抽出)、機械学習、経済学におけるモデル化など、固有値と固有ベクトルの応用は広範囲にわたります。これらの分野では、データの関係性やシステムの特性を理解するために、数学的な手法としての固有値解析が不可欠となります。

4. ベクトルの足し算と固有ベクトル

固有ベクトルは、行列の特性を理解する上で非常に重要な役割を果たしますが、その理解を深めるために、まずはベクトルの足し算について考えてみましょう。ベクトルの足し算の概念は、固有ベクトルの利用法を理解する基盤となります。

ベクトルの足し算の基本

ベクトルは、空間の中で特定の方向と大きさを持つ量です。一般的に、2つのベクトルを足し合わせると、平行四辺形の対角線のような形が得られます。このとき、2つのベクトルの合成は、幾何学的な視点から見ても直感的です。

例えば、ベクトル ( \mathbf{a} ) と ( \mathbf{b} ) を考えたとき、以下のように表されます:

[
\mathbf{c} = \mathbf{a} + \mathbf{b}
]

ここで、ベクトル ( \mathbf{c} ) は、平行四辺形の対角線を形成します。これが、2次元空間におけるベクトルの足し算の基本的なイメージです。

固有ベクトルによる表現

次に、固有ベクトルの観点から、1つのベクトルがどのように表現できるかを見てみましょう。行列 ( \mathbf{M} ) の固有ベクトル ( \mathbf{v}_1 ) と ( \mathbf{v}_2 ) があるとします。任意のベクトル ( \mathbf{v} ) は、これらの固有ベクトルの線形結合として表現することが可能です。

具体的には、次のように書くことができます:

[
\mathbf{v} = a\mathbf{v}_1 + b\mathbf{v}_2
]

ここで、( a ) と ( b ) はスカラーです。このとき、スカラー ( a ) と ( b ) を適切に選ぶことで、どんなベクトル ( \mathbf{v} ) でも固定の固有ベクトルによって表現できることがわかります。これは、行列が固有ベクトルに沿った変換であることを示しています。

具体例

具体的な数値例を考えてみましょう。行列 ( \mathbf{M} ) が次のように定義されているとします:

[
\mathbf{M} = \begin{pmatrix} 3 & 1 \ 0 & 2 \end{pmatrix}
]

この行列の固有ベクトル ( \mathbf{v}_1 ) と ( \mathbf{v}_2 ) を求めると、それぞれ次のような形になります:

  • ( \mathbf{v}_1 = \begin{pmatrix} 1 \ 0 \end{pmatrix} )
  • ( \mathbf{v}_2 = \begin{pmatrix} 0 \ 1 \end{pmatrix} )

ここで、任意のベクトル ( \mathbf{v} = \begin{pmatrix} 2 \ 3 \end{pmatrix} ) は次のように表現できます:

[
\mathbf{v} = 2\mathbf{v}_1 + 3\mathbf{v}_2
]

このように、固有ベクトルを用いることで、複雑なベクトルでも簡単に表現することができ、さらに行列の操作も非常に容易になります。固有ベクトルによる表現を利用すると、行列と固有価の関連性を直感的に理解でき、計算の負担を軽減できるのです。

5. 固有ベクトルが表す方向の意味

固有ベクトルは、その特性から非常に興味深い方向を表します。行列が与えられたとき、固有ベクトルは行列の作用によってその方向が変わらないベクトルです。この特性を理解することは、線形変換の本質を把握する上で重要です。

固有ベクトルと変換

固有ベクトルを考える際に、特に注意すべきはその方向です。行列 ( A ) に対して固有ベクトル ( \boldsymbol{u} ) が存在し、対応する固有値 ( \lambda ) がある場合、以下のような関係式が成り立ちます:

[
A \boldsymbol{u} = \lambda \boldsymbol{u}
]

ここで、行列 ( A ) がベクトル ( \boldsymbol{u} ) を変換する際、その向きが変わらず、スカラーである固有値 ( \lambda ) だけがその大きさに作用します。このことが意味するのは、固有ベクトルは行列の性質やシステムの特性を示す重要な指標であるということです。

実世界の応用例

固有ベクトルの方向の意味は、多くの実世界の問題において明確になります。たとえば、物理学や工学の分野では、固有振動数や固有モードと呼ばれる概念があります。これらは、物体が自由に振動する際の特定の方向を示し、その方向で振動することが最も効率的です。

別の例として、構造物の設計においても、固有ベクトルは使用されます。建物が地震によって揺れるとき、その固有振動モードを理解することで、どの方向で最も影響を受けやすいかを予測できます。設計者はこの情報をもとに、建物の強度や剛性を最適化することが可能です。

数学的な視点からの理解

数学的には、固有ベクトルはある線形空間内で特定の方向のベクトル集まりとも見なせます。この集合は線形空間における「固有空間」と呼ばれ、行列の持つ特性を表現するための強力な道具です。固有空間のベクトルは、行列による変換の「安定性」を知る手がかりにもなります。

まとめ

固有ベクトルが表す方向は、行列の変換における重要な特性を示します。これにより、数学だけでなく、多くの分野での実用的な意味を持つことが分かります。システムの挙動や特性を理解するためには、固有ベクトルの持つ方向性を把握することが不可欠と言えるでしょう。このように、固有ベクトルの方向は数学的な枠組みを超えて、多くの実世界の応用に直接結びついています。

まとめ

固有値と固有ベクトルは、線形代数の基本概念であり、物理学、工学、データ解析など、さまざまな分野で重要な役割を果たしています。固有ベクトルが表す方向性は、システムの特性を表す重要な指標となり、実世界の問題を理解するための強力なツールとなっています。本ブログでは、固有値・固有ベクトルの基本的な計算方法や応用分野、そしてベクトルの足し算との関係性について詳しく解説しました。これらの概念を理解し、適切に活用することで、複雑なシステムの挙動を予測し、最適化する手段を得ることができるでしょう。固有値・固有ベクトルは、単なる数学的理論にとどまらず、現実世界を分析し、理解するための重要な基盤となっているのです。

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この記事を書いた人

 大学卒業後、デジタルマーケティング企業に入社し、BtoBマーケティングのコンサルに従事。200社以上のコンサルティング経験に加え、ウェビナー・ワークショップ・Academyサイトの立ち上げに携わり、年間40件のイベント登壇と70件の学習コンテンツ制作を担当。
 その後、起業を志す中で、施策先行型のサービス展開ではなく企業の本質的な体質改善を促せる事業を展開できるよう、AI/DX分野において実績のあるAIソリューション企業へ転職。
 現在はAIソリューション企業に所属しながら、個人としてもAI×マーケティング分野で”未経験でもわかりやすく”をコンセプトに情報発信活動やカジュアル相談を実施中。

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